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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2557号 判決

控訴人 天理教水海道分教会

被控訴人 渡辺由夫

主文

本件控訴を棄却する。

ただし、原判決主文第一項を次のように訂正する。

控訴人は被控訴人に対し、別紙目録記載の一の土地の上にある(イ)家屋番号同所無番第一号木造草葺平家教堂一棟建坪三十八坪、別紙目録記載の一及び二の土地の上(登記簿上は一の地上)にある(ロ)家屋番号同所無番第二号木造瓦葺二階建教会客室建坪十六坪外二階坪七坪五合及び別紙目録記載の二の土地の上にある(ハ)木造生子板葺物置一棟建坪四坪五合を収去して右一及び二の各土地を明け渡せ。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は、原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、被控訴人において、主文掲記の(ロ)の建物は別紙目録記載の一及び二の両宅地上に跨つて存在する(登記簿上は一の地上にある。)ものであると述べ、控訴人訴訟代理人において、右事実を認めると述べ、被控訴人が原審における被控訴人本人尋問の結果を援用し控訴人訴訟代理人が当審における証人山本和平、川村信作の各証言及び控訴人代表者羽田忠夫に対する原審及び当審における本人尋問の結果を援用したほかは、原判決の事実摘示に記載されているとおりであるから、右記載を引用する。

理由

当裁判所は、当審における新たな証拠調の結果を参しやくして検討しても、次の点を附加、訂正するほか、原判決の理由に記載されているのと同じ理由で、被控訴人の本訴請求中、主文掲記の(イ)、(ロ)、(ハ)の各建物の収去及び別紙目録記載の一、二の土地の明渡を求める部分を正当と認めるので右理由の記載をここに引用する。

附加、訂正する点は次のとおりである。

一  原判決理由二枚目(記録三三五丁)表四行目「成立に争のない乙第一五号証」から同八、九行目の「使用されていた事実が認められる。」までを次のように改める。

成立に争のない乙第二号証、同第八、九号証、同第十号証の一、二、同第十一、十二号証、同第十三号証の一ないし五及び同第十五、十六号証と原審証人小田川新二郎の証言及び当審における控訴人代表者羽田忠夫尋問の結果によれば、主文記載の(イ)の建物は中村幸蔵が明治三十年ころ建築したもので、じ来引き続き控訴人の前身である天理教教会の教堂として使用されてきたものであるが、登記簿上は明治三十五年九月三日右中村名義で所有権保存登記がなされた後、明治三十六年十月三十日小田川淳名義に贈与による所有権移転登記がなされ、被控訴人が右土地を買い受けた昭和二十八年五月二十九日当時はなお右小田川の所有名義となつていて同年七月十六日一旦小田川新二郎に大正十四年一月四日付家督相続による所有権取得登記を経た上即日同人から控訴人に対し昭和二十八年七月十四日付贈与による所有権取得登記をなしたこと、また主文記載の(ロ)の建物は右同日控訴人名義に所有権の登記を経由したこと、右小田川淳は明治三十六年ころから大正八年死亡するまでの間、控訴人の前身の教会の代表者であつたが、その後代表者は羽田千吉を経て羽田忠夫に変つたこと、控訴人の前身である教会は、天理教水海道宣教所、天理教水海道分教会等と称し、いつから法人格を有するにいたつたかその時期の点は必ずしも定かではないけれども、宗教法人法施行前すでに宗教法人としての法人格を有し宗教法人法の施行に伴いその附則第五項により昭和二十七年七月二十四日新宗教法人たる控訴人が設立されるにおよんで同日控訴人が旧法人の権利義務を承継したことを認めることができる。

二  控訴人の前身の教会が未だ法人格を有しなかつた当時において右(イ)の建物につき教会の代表者であつた小田川淳個人の名義で所有権の登記をなすほか途がなかつたとしても、その死亡により教会の代表者に異動が生じた以上、教会の実体に変更がなかつたとしても、右建物に対する権利を第三者に対抗するためには、新代表者の名義に変更の登記をなすことを要したものというべく、ことに右教会が法人格を取得し、その法人が右建物の所有権を有するに至つた以上は、建物に対する権利主体に変更があつたのであるから、その権利の取得を第三者に対抗するためには、その法人の名義に所有権移転登記をなすことを要するものと解すべきであり、従つて右小田川名義の登記をもつて控訴人名義の登記と同視し、建物保護法第一条の規定による対抗力があるものとみることはできず、さらに被控訴人の本件土地取得登記後に右(イ)の建物に対し控訴人名義の登記がなされたとしても、これによつて、被控訴人に対し、右建物の賃借権をもつて対抗することはできないものといわなければならない。

三  原審証人吉田政義の証言並びに原審及び当審における控訴人代表者羽田忠夫本人尋問の結果中、原判決の認定及び前記認定に反する部分は、原審における証人染谷市三郎、山中寛一、山中静江の各証言及び被控訴人渡辺由夫本人尋問の結果等に照らし、にわかに採用しがたく、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

四  主文記載の(ロ)の建物が別紙目録記載の一、二の宅地に跨つて存在する(登記簿上は一の地上にあるように記載されている。)ことは当事者間に争がない。

以上のとおりであるから、被控訴人の本訴請求中、主文記載の(イ)、(ロ)、(ハ)の建物を収去して別紙目録記載の一、二の各土地の明渡を求める部分を正当として認容した原判決は相当であり、本件控訴は棄却すべきであるが、原判決の主文第一項の記載は不正確であるから、これを主文第三項記載のとおり訂正すべきものとし、控訴費用は控訴人の負担として主文のとおり判決する。

(裁判官 川喜多正時 小沢文雄 位野木益雄)

目録

一 茨城県水海道市橋本町三三三一番の三

宅地 九十三坪

二 同所三三三一番の五

宅地 三十八坪

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